ICRPのイニシアチブで始まった福島ダイアログセミナーは、2015年12月、伊達市で開かれた国際セミナーをもって正式に終了した。とはいえ、これで対話が終わったわけではない。地元の有志がその後を引き継ぎ、2016年から2018年にかけて、福島ダイアログと題して新たに8回のセミナーを企画した。
ICRPのイニシアチブで始まった福島ダイアログセミナーは、2015年12月、伊達市で開かれた国際セミナーをもって正式に終了した。「原発事故後の生活状況の回復」というテーマで、このセミナーで得られた経験や主な教訓を共有することが狙いであった(詳しくはICRPのサイト を参照)。
とはいえ、これで対話が終わったわけではない。 地元の有志がその後を引き継ぎ、2016年から2018年にかけて、「福島ダイアログ」と題して新たに8回のセミナーを企画した。 このダイアログセミナー第2シリーズは、
日本財団, の後援のもとに行われ、ICRPは諮問機関として、現地での組織業務と、委員や国外招聘専門家の移動の調整にあたった。
すでに避難指示が解除された区域や、まもなく解除が予定されている区域の住民が参加するこの新しいセミナーの主な目的は、そうした人々がまともな生活を取り戻そうとする中で中期的に直面する課題について共有することだった。 また、国内の大学の数多くの専門家や大学生がこうした地域が抱える課題をよりよく理解し、福島の参加者にとっても同県の市民や現地・国内の専門家との連携を育み強化していく機会となった。
2日間にわたるセミナーは一般に以下の形式をとった。
- 1日目:住民が直面する具体的な課題の理解を目的とした開催地の見学
- 2日目:午前中はプレゼンテーション、午後は参加者全員によるディスカッション
第2シリーズで提起された多くの課題が、第1シリーズに直結するものだった。 中でも、避難指示解除区域での日常生活がいかに困難であるかが頻繁に語られた。インフラ面 (再建の遅れ、医療サービスの不足、仮住まいの日常生活 での困難、住宅の修復や再建における困難など)から経済面 (経済復興の難しさ。特に農業は、土壌汚染や人手不足、農畜産物が放射能で汚染されているといった噂や産物に対する消費者の不信などから回復が困難。)、社会面 地域社会の再建、若者が少ないこと、地元の催しや文化的行事の再開、事故の記憶の共有と伝承などに対する不安)まで、課題は様々な分野にわたる。
また、以下のような新たな疑問も提起された。
- 長期避難期間の心理的影響 と、それぞれが経験した状況の違いから、住民が未来に対して同じ考えを共有することの難しさ
- 復興過程の複雑さ と、「帰還困難区域」の将来に対する不安
- 情報入手の難しさ: 環境汚染、人々の被爆状況、除染の効果などに関する情報
- 廃棄物の除染と管理: 埋立処分による水質への影響、長期的な廃棄物の管理に対する懸念
- 山・森林の汚染:除染プロセスの効果および降雨による放射性核種の移行リスクに対する懸念
2016年から2018年まで開かれた8回のダイアログセミナーの報告ページへのリンク
この第2シリーズも終わりに近づいた2018年2月、福島市で開催された戦略会議に、ダイアログセミナーの組織に関与する福島のエートス、地元関係者、国外専門家(ICRP、NEA、IRSN、NRPA、CEPN)、および日本環境省の代表者約30人が集まった。 この会議は以下を目的としていた。
- 開催されたダイアログセミナーから教訓を導き、国内および海外での復興プロセスにどのような影響を与えたかを示す
- 対話から得られた主な成果の普及方法を探る
- 対話の継続の可能性と取り組むべきテーマについて各自の見解を表明する
参加者全員が、交流と意見交換の促進、さらには、各地域、日本国内、海外で行われてきた活動を共有し、これまで交流のなかった地域間の関係づくりに役立つ手段として、ダイアログの重要性を指摘した。特に、海外の関連分野団体や専門家の参加は、放射線リスクに関して提供される情報の信頼性に欠かせないことや、科学者、専門家、当局に対する不信感を取り除く効果的な手段であることが認められた。
締めくくりとして、参加者らは、帰還困難区域が存在し続ける間はダイアログを続けるべきだとの強い願望を表明した。 こうして、地元の人の手によって福島ダイアログ委員会(FDC)が設立された。2018年12月にいわき市で開催が予定されているダイアログセミナーの準備と同時に、対話を続け、毎回の成果を共有し、伝えていくことを目的とした非営利組織をつくるためである。その結果、2019年に、NPO法人福島ダイアログ が誕生し、同年に新たに2回のダイアログが開催された。現在も活動は続いている。