福島第一原子力発電所での事故により、放射能が環境中に拡散し、それが住民の日常生活における有害な要素となった。無色、無臭、無味のこの放射能は、ほとんどの人が通常意識するものではない。放射能が健康に及ぼす影響についての不安が人々の心に生じたのは必然の成り行きであった。
その結果、人々は形のない潜在的な脅威に直面したが、それに対する備えはまるで持ち合わせていなかった。この非常に困難な状況は、多くの人々を混乱させ、自信を失わせた。それまで大切にし、誇りにしてきた自分たちの生活の場が、何か別の、人を脅かすようなものに変わってしまった。日常生活が悪化し、人と人とをつなぐ、人と地域社会とをつなぐ絆が薄れたり、絶たれたりしてしまった。こうした状況の中、多くの人にとっての唯一の答えは、可能な限り放射能から逃れることであった。ただ、それによって、できる事や行ける場所の制限から逃れられたわけではない。
こうした文脈において、ダイアログは、参加者が徐々に状況を把握し、自分の生活に関する決定を自分で下す力を取り戻し、専門家や当局との関係をつなぎ直す上で重要な役割を果たした。ダイアログにより、参加者は、そこに住み続けるのか、離れるのか、戻るのかという、特にその決定に関して、個々の選択を尊重しながら、日常生活の中でどのような策をとる余地があるのかを知ることができた。ダイアログにより、何度も、利害関係者の間のつながり、特に生産者と消費者の間、近隣の村どうしの間、市民と専門家の間、さらにはベラルーシとノルウェー、そして日本の市民の間のつながりが構築された。
福島第一原子力発電所の事故以来、合計で約1,000人が直接さまざまなダイアログに参加した。多くは地元住民であったが、日本国内外の他の場所からの参加者も含まれた。多くの人は、ソーシャルメディア、地元メディアによる報道、ICRPおよび福島のエートスのウェブサイトで入手した情報を通じて、ダイアログに参加した。
ダイアログの2つのシリーズにとってICRPの関与が大きな利益をもたらしたことは、参加者に広く認識されている。ICRPは、賢明なアドバイスを提供する中立的な第三者として、健全な議論を奨励する立会人として、また、日本国内外の専門家とのつながりを構築するために、結果に根拠を与えるために、そして人々の声が福島県外に届くようにするために、非常に重要な役割を果たした。
原発事故後の管理のための主な教訓の中で、ダイアログは、放射線防護の実施は不可欠であるが、日常生活において遭遇するさまざまな問題を解決するのにそれが十分ではないことを明らかにした。放射線防護は、個人の幸福と、地域社会の共通の利益に役立つものである。関係する住民が地域での自分自身の放射線状況を知りそれに応じて行動するのを助けるために、個々人のデータと地域内の被爆の分布に基づいた監視対策を設けることが特に重要だ。ダイアログはまた、実用的な放射線防護文化を作っていく上で、教育、公衆衛生・医療および行政の各分野で地元の専門家が関与することの重要性を訴えた。
そしてまたダイアログセミナーは、ベラルーシの場合と同様に、地域、地方、国レベルでのすべての関係者(当局、専門家、業者および住民)間の協力のメカニズムと、地域社会での最良慣行の普及が重要な役割を果たすことを示すと共に、そのようなメカニズムを設定することがいかに難しいかを明らかにした。