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福島ダイアログセミナーから学んだ主な教訓

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福島ダイアログセミナーから学んだ主な教訓

2011年から2018年の間に、合計20回のダイアログセミナーが開催された。原発事故後の管理に関して、IRSNは、以下のように4つの主な教訓を引き出すことができた​。​

福島ダイアログセミナーから学んだ主な教訓

福島ダイアログセミナーから学んだ主な教訓

2011年から2018年の間に、合計20回のダイアログセミナーが開催された。原発事故後の管理に関して、IRSNは、以下のように4つの主な教訓を引き出すことができた​。​

1.事故の人間的側面と生活環境への影響

​​​福島第一原発事故は、被害を受けた地域住民の生活様式と人間関係に、大きな感情的および社会的影響を及ぼした。

福島ダイアログセミナーの参加者の証言は、チェルノブイリ事故後に観察されたいくつかの事実を裏付けている。 つまり、放射能汚染と保護措置の実施に関連する社会的影響に関するもので、住民の日常生活に対するコントロールの喪失、家族の崩壊、また特に子供たちの未来への不安と、徐々に見捨てられるのではないかという恐れである。

福島ダイアログセミナーは、人々の日常生活における放射能汚染の出現が、それまでの世界との重大な断絶としてとらえられ、 前例のない状況を生み出し、 個人の幸福と地域社会での共同生活の質を大きく損なうものであったと認識させた。事故は、汚染地域の被災者、避難者にとって、様々な懸念、心配、恐れを生み出す複雑な状況を生み出した。事故の発生直後、被災者の多くは、汚染された土地に留まるべきか、それとも他の地域に移るべきかというジレンマに陥った。そして、避難した人々にとっては、帰るべきかどうかという自問でもあった。これらの問いに対する答えは、地域社会の状況と、それぞれの個人的な状況により異なっていた。

事故自体の管理と放射線状況の改善を目的としたすべての措置は は - 除染プログラム、被災地での経済的および社会的活動の禁止と制限、食品管理、放射線基準の適用、また被害者への補償制度 - 日常生活の仕方に大きな社会的影響を及ぼし、人間関係においても深刻な混乱をもたらした。

福島ダイアログセミナーの参加者は、その証言と考察を通じて、事故の人間的な側面を適切な言葉で表現した。 参加者は自らの経験に基づいての出来事を報告し、それによって復興へのプロセスに関与していった。

これは、原発事故後に、罹災者と専門家の両方が参加する対話フォーラム設立の重要性を明確に裏付けている。 またこれは、自己保護の行動を含む実際的な放射線防護の文化を根付け、当局によって実施される放射線防護の施策をよりよく理解するのに役立つうえ、人々がそれにより深く関与することを可能にする。専門家は、このような対話を通じて関係者の話を聞くことによって、人々の懸念、危惧、そして人々の望んでいる事柄をよりよく理解できる。罹災者にとっては、住民の状況についての一般的な情報を得るだけでなく、それぞれの被害状況、そして放射線からの自分自身のそして住民の保護についての理解を助けることができる。

ダイアログセミナーはまた、生活条件の回復のために必要な戦略を確立するために、被災コミュニティの特殊性を注意深く分析することの重要性を明らかにした。 さまざまな地区で開催されたセミナーが示しているように、同水準の放射能汚染でも、各地区の経済的および社会的な特殊性だけでなく、伝統、文化、歴史に応じて異なった結果がもたらされる ことが明らかにされた。このような考察から、多様性を考慮するうえで、どのタイプの管理組織が最も適しているかを認識するために、地区、地域、および国レベルでの措置の連携についてより深い考察が必要である。

福島とチェルノブイリの事故後の経験は、子供の保護が大きな関心事であることを示している。 このような放射能からの保護の実際的な方法は、地域の状況だけでなく文化的背景にも依存しており、幅広い措置に関わってくる。違いを超えて共通しているのは、汚染地域での生活に関する問題から子供、特に中高生を遠ざけないことである。複数の生徒の証言から、彼らが福島県の生活環境の回復に関与したいと願っていることを明確に示している。

​2.測定することの役割​​

原発事故が起きた場合の、放射線状況の迅速な特性評価の重要性は、措置決定を導くための公的組織に必要なだけでなく、被災者の側の必要性にも基づいていなくてはならず、この点はダイアログセミナーの重要な教訓のひとつであった。 しかし、地域の平均空間線量と、食品の平均汚染レベルに関する一般情報へのアクセスだけでは、個人が自分の行動や活動について決定を下すのには十分ではない。

したがって、ダイアログセミナーは、個々の測定の重要な役割を再確認した。 それぞれの被曝に関する情報にアクセスすることによってのみ、住民は、自分の身近な環境を特徴付ける放射線状況と自分の生活様式を関連付け、情報に基づいて適切な決定を下すことができる。いくつかの証言によれば、地域社会として個人に線量計を配布することが重要であり、それによって住民は被曝と自分の日常の活動とを関連付け、自分のさらされている状況を以前のようにコントロールすることができるようになったと強調している。

このような測定により、住民は現状について意見をだしあい、地域の生活条件を改善するための解決策を話し合って決めることが可能になる。 ダイアログセミナーは、得られた測定結果の解釈と、地元住民と専門家の間の相互作用を可能にするための、意見交換の場の重要性を浮き彫りにした。公的機関や市民によって得られた測定結果の拡散は依然として微妙な問題であり、避けられない相違点についての解釈や、機密性に関連する困難な問題を提起している。

ダイアログセミナーの参加者が、当局が状況管理するために適用する放射線基準に言及することはめったになかったし、その正当性について議論することもほとんどなかったことに注目すべきである。 議論の結果、被曝汚染の被災者が、主に放射線の観点から状況を改善するために何ができるかに強い関心を抱いていることが確認された。しかし、ダイアログセミナーの参加者は、放射線基準が日常生活に与える影響、特にそれらが活動の阻害要因および住民間の分裂の原因となり、コミュニティにとってネガティブな結果をもたらす可能性があるという事実について分析し話し合った。​

3.共有する専門知識のプロセス、および放射線防護の実践的文化の発展

​チェルノブイリ事故後すでにそうであったように、福島第一原発事故およびダイアログセミナーからのフィードバックは、放射線防護の専門家が、共有される専門知識のプロセスを通じて、被災住民の自律性のために重要な役割を果たすことができることを明確に示した。 共有される専門知識のプロセスは、専門家と事故の影響を受けた住民が共同で状況を評価できるようにするメカニズムである。

専門家の役割は、放射線状況について地元住民と共同で特性評価をおこなうことを始め、さまざまな局面において明らかになった。 専門家は、すでに放射線の状況を認識していたが、彼らにとっての最初の課題は、不安や懸念に対して耳を傾けるだけでなく、日常生活や将来に大きな関心をしめしている地元の人々の期待に応えることだった。そこを基盤として、専門家は、住民とともに、状況を改善するための保護措置、または地域のニーズと特殊性を考慮して、対応する放射線モニタリングを決定することができた。いずれにせよ、専門家はその役割が変化していくのを認識し、自分の立場について考えることなしには先に進めない。つまり専門家はもはや、知識があってそれを提供するというだけでは済まされず、被災の住民がそれぞれ体験した現実、彼らの懸念と彼らの不安についての意見に耳を傾けなければならないのである。専門家は、もっている自分の知識を他の利害関係者の知識と組み合わせることで、誰もが使用できる実用的なノウハウの確かな基盤を構築するのに役立つ。このような「案内人」としての役割は、それまでの専門家の態度とは違ったものだ。

さらに、放射線防護の専門家の仕事は、彼ら自身の努力だけでなく、公的機関、特に地方自治体の努力にも基づいていることを心に留めておく必要がある。 実際、共有される専門知識のプロセスの場合、放射線防護の専門家は、地元住民の期待と優先的な意見を、地方自治体に直接伝える上で重要な役割を果たすことができ、地方自治体はそれに合わせて戦略を適応させることができる。放射線防護の専門家は、地方自治体の組織を通じてより関与することもできる。この場合、専門家は彼らの科学的知識を提供し、地方自治体は地元に関する知見と市民との直接の接触をもたらす。

事故後の状況は、日常生活のあらゆる側面に影響を与えるため、住民は放射能に関連する問題だけに直面しているわけではない。 このような文脈において、専門家は、生活条件全体を改善するための戦略を策定し、実施していかなければならない。繰り返しになるが、専門家は、従来の専門家としての枠を越えて、多くの複雑な問題に対処して行かなければならず、そのことが彼らにとっての真の課題となった。

いずれにせよ、チェルノブイリ事故と福島原発事故後の状況は、多くの場合、共有される専門知識のプロセスが成功し、それによって地元の人々は事態に対処することができたことを示している。 地元住民による放射線防護の実践的文化の獲得は、日常生活における放射能に関する独自の基準の構築につながる。このように、地元住民が自主性を取り戻し、見識のある仕方で彼ら自身の選択をくだすことができる。言い換えれば、共有される専門知識のプロセスは、汚染地域住民の尊厳を回復するのに役立つ。

4.専門家の倫理的挑戦

事故後の状況の管理、特に被災住民の自律化の過程における専門家の関与は、彼らの個人的および職業的な倫理に関して新たな問題点を提起する。 地域状況の評価に直接関与するにあたって、いくつかの落とし穴について認識しておくる必要がある。避けるべき落とし穴としては、放射線リスクを軽視すること、リスクに直面している住民を放置すること、住民を被災地に強制的にとどまらせること、または関係者を巻き込むことなく保護措置を強制することなどが挙げられる。

したがって、専門家の倫理は、ダイアログセミナー中に明らかになったように、以下のような原則を基盤にしている。

- 放射線リスクに対して慎重な態度をとる専門家は、自らの知識の限界と、事故後の状況管理の不確実性を認識する必要がある。したがって、安全な状況であると結論付けることは決して容易ではなく、より一般的には、放射線被曝に関する影響とリスクについて被災者と話し合うことも同様である。専門家は、放射線リスクおよび放射線防護の基本原則に関する科学的知識において、常に一貫性を保つ必要がある。​​

- 自律性と自由選択の尊重 : 各個人の価値観と選択において決定を下す必要がある。したがって、専門家の役割は、各人の将来について彼らに代わって決定を下すことではなく、またある方法が正しい方法であると説得することでもない。決定においては考慮すべき多くの側面が存在し、放射線被曝の問題はそれらのうちのひとつにすぎない。

- コミットメント: 事故後の管理に関わる専門家は、放射線保護を改善し、生活条件を回復するために、住民に寄り添って関与することが不可欠である。この関与は、さまざまなレベルでの意思決定(地域、地方、国)間の良好な関係促進とその確立に貢献する。

このように、ダイアログセミナーは、放射線リスクに関して、地元住民の自律の時に、長く困難なプロセスにおける専門家の重要な役割を明らかにした。この重要性には、関係を構築し「案内人」として、時には専門家自身が新しい倫理を採用しなくてはならないという必要性を伴う。​​

​東京・江戸川沿いの津波に対する堤防沿いの歩道(日本)©Noak /LebarFloréal/ IRSNメディアライブラリ​​​

​東京・江戸川沿いの津波に対する堤防沿いの歩道(日本)©Noak /LebarFloréal/ IRSNメディアライブラリ​​​

1.事故の人間的側面と生活環境への影響

​​​福島第一原発事故は、被害を受けた地域住民の生活様式と人間関係に、大きな感情的および社会的影響を及ぼした。

福島ダイアログセミナーの参加者の証言は、チェルノブイリ事故後に観察されたいくつかの事実を裏付けている。 つまり、放射能汚染と保護措置の実施に関連する社会的影響に関するもので、住民の日常生活に対するコントロールの喪失、家族の崩壊、また特に子供たちの未来への不安と、徐々に見捨てられるのではないかという恐れである。

福島ダイアログセミナーは、人々の日常生活における放射能汚染の出現が、それまでの世界との重大な断絶としてとらえられ、 前例のない状況を生み出し、 個人の幸福と地域社会での共同生活の質を大きく損なうものであったと認識させた。事故は、汚染地域の被災者、避難者にとって、様々な懸念、心配、恐れを生み出す複雑な状況を生み出した。事故の発生直後、被災者の多くは、汚染された土地に留まるべきか、それとも他の地域に移るべきかというジレンマに陥った。そして、避難した人々にとっては、帰るべきかどうかという自問でもあった。これらの問いに対する答えは、地域社会の状況と、それぞれの個人的な状況により異なっていた。

事故自体の管理と放射線状況の改善を目的としたすべての措置は は - 除染プログラム、被災地での経済的および社会的活動の禁止と制限、食品管理、放射線基準の適用、また被害者への補償制度 - 日常生活の仕方に大きな社会的影響を及ぼし、人間関係においても深刻な混乱をもたらした。

福島ダイアログセミナーの参加者は、その証言と考察を通じて、事故の人間的な側面を適切な言葉で表現した。 参加者は自らの経験に基づいての出来事を報告し、それによって復興へのプロセスに関与していった。

これは、原発事故後に、罹災者と専門家の両方が参加する対話フォーラム設立の重要性を明確に裏付けている。 またこれは、自己保護の行動を含む実際的な放射線防護の文化を根付け、当局によって実施される放射線防護の施策をよりよく理解するのに役立つうえ、人々がそれにより深く関与することを可能にする。専門家は、このような対話を通じて関係者の話を聞くことによって、人々の懸念、危惧、そして人々の望んでいる事柄をよりよく理解できる。罹災者にとっては、住民の状況についての一般的な情報を得るだけでなく、それぞれの被害状況、そして放射線からの自分自身のそして住民の保護についての理解を助けることができる。

ダイアログセミナーはまた、生活条件の回復のために必要な戦略を確立するために、被災コミュニティの特殊性を注意深く分析することの重要性を明らかにした。 さまざまな地区で開催されたセミナーが示しているように、同水準の放射能汚染でも、各地区の経済的および社会的な特殊性だけでなく、伝統、文化、歴史に応じて異なった結果がもたらされる ことが明らかにされた。このような考察から、多様性を考慮するうえで、どのタイプの管理組織が最も適しているかを認識するために、地区、地域、および国レベルでの措置の連携についてより深い考察が必要である。

福島とチェルノブイリの事故後の経験は、子供の保護が大きな関心事であることを示している。 このような放射能からの保護の実際的な方法は、地域の状況だけでなく文化的背景にも依存しており、幅広い措置に関わってくる。違いを超えて共通しているのは、汚染地域での生活に関する問題から子供、特に中高生を遠ざけないことである。複数の生徒の証言から、彼らが福島県の生活環境の回復に関与したいと願っていることを明確に示している。

​2.測定することの役割​​

原発事故が起きた場合の、放射線状況の迅速な特性評価の重要性は、措置決定を導くための公的組織に必要なだけでなく、被災者の側の必要性にも基づいていなくてはならず、この点はダイアログセミナーの重要な教訓のひとつであった。 しかし、地域の平均空間線量と、食品の平均汚染レベルに関する一般情報へのアクセスだけでは、個人が自分の行動や活動について決定を下すのには十分ではない。

したがって、ダイアログセミナーは、個々の測定の重要な役割を再確認した。 それぞれの被曝に関する情報にアクセスすることによってのみ、住民は、自分の身近な環境を特徴付ける放射線状況と自分の生活様式を関連付け、情報に基づいて適切な決定を下すことができる。いくつかの証言によれば、地域社会として個人に線量計を配布することが重要であり、それによって住民は被曝と自分の日常の活動とを関連付け、自分のさらされている状況を以前のようにコントロールすることができるようになったと強調している。

このような測定により、住民は現状について意見をだしあい、地域の生活条件を改善するための解決策を話し合って決めることが可能になる。 ダイアログセミナーは、得られた測定結果の解釈と、地元住民と専門家の間の相互作用を可能にするための、意見交換の場の重要性を浮き彫りにした。公的機関や市民によって得られた測定結果の拡散は依然として微妙な問題であり、避けられない相違点についての解釈や、機密性に関連する困難な問題を提起している。

ダイアログセミナーの参加者が、当局が状況管理するために適用する放射線基準に言及することはめったになかったし、その正当性について議論することもほとんどなかったことに注目すべきである。 議論の結果、被曝汚染の被災者が、主に放射線の観点から状況を改善するために何ができるかに強い関心を抱いていることが確認された。しかし、ダイアログセミナーの参加者は、放射線基準が日常生活に与える影響、特にそれらが活動の阻害要因および住民間の分裂の原因となり、コミュニティにとってネガティブな結果をもたらす可能性があるという事実について分析し話し合った。​

3.共有する専門知識のプロセス、および放射線防護の実践的文化の発展

​チェルノブイリ事故後すでにそうであったように、福島第一原発事故およびダイアログセミナーからのフィードバックは、放射線防護の専門家が、共有される専門知識のプロセスを通じて、被災住民の自律性のために重要な役割を果たすことができることを明確に示した。 共有される専門知識のプロセスは、専門家と事故の影響を受けた住民が共同で状況を評価できるようにするメカニズムである。

専門家の役割は、放射線状況について地元住民と共同で特性評価をおこなうことを始め、さまざまな局面において明らかになった。 専門家は、すでに放射線の状況を認識していたが、彼らにとっての最初の課題は、不安や懸念に対して耳を傾けるだけでなく、日常生活や将来に大きな関心をしめしている地元の人々の期待に応えることだった。そこを基盤として、専門家は、住民とともに、状況を改善するための保護措置、または地域のニーズと特殊性を考慮して、対応する放射線モニタリングを決定することができた。いずれにせよ、専門家はその役割が変化していくのを認識し、自分の立場について考えることなしには先に進めない。つまり専門家はもはや、知識があってそれを提供するというだけでは済まされず、被災の住民がそれぞれ体験した現実、彼らの懸念と彼らの不安についての意見に耳を傾けなければならないのである。専門家は、もっている自分の知識を他の利害関係者の知識と組み合わせることで、誰もが使用できる実用的なノウハウの確かな基盤を構築するのに役立つ。このような「案内人」としての役割は、それまでの専門家の態度とは違ったものだ。

さらに、放射線防護の専門家の仕事は、彼ら自身の努力だけでなく、公的機関、特に地方自治体の努力にも基づいていることを心に留めておく必要がある。 実際、共有される専門知識のプロセスの場合、放射線防護の専門家は、地元住民の期待と優先的な意見を、地方自治体に直接伝える上で重要な役割を果たすことができ、地方自治体はそれに合わせて戦略を適応させることができる。放射線防護の専門家は、地方自治体の組織を通じてより関与することもできる。この場合、専門家は彼らの科学的知識を提供し、地方自治体は地元に関する知見と市民との直接の接触をもたらす。

事故後の状況は、日常生活のあらゆる側面に影響を与えるため、住民は放射能に関連する問題だけに直面しているわけではない。 このような文脈において、専門家は、生活条件全体を改善するための戦略を策定し、実施していかなければならない。繰り返しになるが、専門家は、従来の専門家としての枠を越えて、多くの複雑な問題に対処して行かなければならず、そのことが彼らにとっての真の課題となった。

いずれにせよ、チェルノブイリ事故と福島原発事故後の状況は、多くの場合、共有される専門知識のプロセスが成功し、それによって地元の人々は事態に対処することができたことを示している。 地元住民による放射線防護の実践的文化の獲得は、日常生活における放射能に関する独自の基準の構築につながる。このように、地元住民が自主性を取り戻し、見識のある仕方で彼ら自身の選択をくだすことができる。言い換えれば、共有される専門知識のプロセスは、汚染地域住民の尊厳を回復するのに役立つ。

4.専門家の倫理的挑戦

事故後の状況の管理、特に被災住民の自律化の過程における専門家の関与は、彼らの個人的および職業的な倫理に関して新たな問題点を提起する。 地域状況の評価に直接関与するにあたって、いくつかの落とし穴について認識しておくる必要がある。避けるべき落とし穴としては、放射線リスクを軽視すること、リスクに直面している住民を放置すること、住民を被災地に強制的にとどまらせること、または関係者を巻き込むことなく保護措置を強制することなどが挙げられる。

したがって、専門家の倫理は、ダイアログセミナー中に明らかになったように、以下のような原則を基盤にしている。

- 放射線リスクに対して慎重な態度をとる専門家は、自らの知識の限界と、事故後の状況管理の不確実性を認識する必要がある。したがって、安全な状況であると結論付けることは決して容易ではなく、より一般的には、放射線被曝に関する影響とリスクについて被災者と話し合うことも同様である。専門家は、放射線リスクおよび放射線防護の基本原則に関する科学的知識において、常に一貫性を保つ必要がある。​​

- 自律性と自由選択の尊重 : 各個人の価値観と選択において決定を下す必要がある。したがって、専門家の役割は、各人の将来について彼らに代わって決定を下すことではなく、またある方法が正しい方法であると説得することでもない。決定においては考慮すべき多くの側面が存在し、放射線被曝の問題はそれらのうちのひとつにすぎない。

- コミットメント: 事故後の管理に関わる専門家は、放射線保護を改善し、生活条件を回復するために、住民に寄り添って関与することが不可欠である。この関与は、さまざまなレベルでの意思決定(地域、地方、国)間の良好な関係促進とその確立に貢献する。

このように、ダイアログセミナーは、放射線リスクに関して、地元住民の自律の時に、長く困難なプロセスにおける専門家の重要な役割を明らかにした。この重要性には、関係を構築し「案内人」として、時には専門家自身が新しい倫理を採用しなくてはならないという必要性を伴う。​​